2009年 02月 25日
「ふるさと」
何日か暖かい日が続いた後に、再び真冬の寒さが戻ってきた日だった。
冷たい、細い雨がシトシトと降っていた。
何時もは多くの人で賑わい、平和な光景に溢れている公園も、厚い雲の覆われたその時は、ちらほらと傘をさした人が足早に通り過ぎてゆくだけで、何時もとは全く違う寒々としたたたずまいを見せていた。
私は、用事をすませると、公園を抜けたところにある地下鉄の駅に向かっていた。
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ふと、雨の中で、なにかきれいな音がかすかに流れているような気がした。そっと心により沿うような、何故か懐かしい、柔らかな、やさしい虹のような音色が漂っているのだ。
なんだろう・・・私は立ち止まってそっと辺りをうかがった。
かすかに、笛の音が流れている。笛?
わたしは耳を済ませた。確かに聞こえる。そうだ、リコーダーだ。たしかに、リコーダーの音色だ。
どこからだろう・・・
私は辺りを見回した。

リコーダーの音は公園の隅に点在する、ブルーのテントの一つから、流れてきているようだった。

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   うさぎおいし かのやま
   こぶなつりし かのやま
   夢はいまも めぐりて
   忘れがたき ふるさと

どこかで手に入れたリコーダーであるのだろう。
誰もが知っている「ふるさと」が静かに、ゆっくりと雨にけむる公園の片隅から流れ、冷たい雨の中に消えてゆく。
私は立ち止まったまま、耳を傾けた。

   いかにいます ちちはは
   つつがなきや ともがき
   雨にかぜに  つけても
   忘れがたき  ふるさと

1番だけでなく2番、3番の歌詞を思いつつ吹いているのだろうか、リコーダーは、ゆっくりと、何度も何度もくりかえし、いつまでも続いていた。
   
    こころざしを はたして
    いつの日にか 帰らん
    山は青き   ふるさと
    水は清き   ふるさと

私は立ち止まったまま、リコーダーに合わせて、「ふるさと」を小さく口ずさんだ。
   
寒いブルーシートのテントの中で、雨の日、どんな人が、どのような思いで、「ふるさと」を吹いているのか・・・
「いつの日にか、帰らん・・・」
3番のその歌詞のところまで来た時、私はたまらなくなり目頭が熱くなった。
志など果たさなくてもいい、ただふるさとに帰ることができたら・・・
切なすぎる歌詞を一緒に口ずさみながら、私の心にはしんしんと哀しみが沁みていった。

by mimishimizu3 | 2009-02-25 17:43 | エッセイ


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