2011年 06月 24日
山椒の花その後
八百屋の店先で、青々とした山椒の実を見つけた。
このブログで「山椒の思い出」を出したのは、4月24日であった。
花が咲いて、実がなって・・・・たった2ヶ月の間に自然は着実に歩を進めていた。
あの思い出を書いてから、私はずっと心のどこかで、その後のS君の情報を知りたいと思っていた。

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山椒の実を買って家に帰り、私は台所でていねいに洗った。窓の外が、夕焼けに染まっているのを見ながら、私は数ミリの細かな枝を一つ一つ取り除いていった。そして、やっぱりAさんに電話してみようと心に決めた。
Aさんは高校からの友人で、彼女に聞けば、S君のこともわかるはずだ。

その夜、佃煮にするため、昆布をもどし、細かく切り刻み、山椒の実と一緒に鍋にいれ、弱火にかけると、私は遠い友人に電話した。

「S君、ああ、あの背の低かった人ね。」
Aさんは直ぐに言った。そして高校卒業後のS君のことを話してくれた。
彼は理系の大学に進み、名前を聞けば誰もが知っている企業の研究者となったそうである。勉強も良く出来たS君なら、そうだろうなあと私は納得した。
「それで、結婚もしたんでしょう」
私は思い切って聞いてみた。150センチの背である私とほとんど変わらないS君はどんな女性と結婚したのだろう・・・
私がそう言うと、Aさんは楽しそうに、明るい声で言った。
「そうよ、それも、彼より10センチ以上も背の高い、すごいきれいで美人で、会社ではミス○○と呼ばれていた人よ」と、○○に会社の名前を言った。
どうやら、遠く離れてしまった私までは届かなかったが、この話は同級生の間ではかなり有名だったらしい。
彼女は楽しげに話してくれた。

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同じ会社で働いていた人で、あるとき、上司の家庭に数人が招かれた時、お茶請けとして、「柿ピー」という柿の種とピーナッツが混ざったスナックを出された。綺麗で美人の彼女は、その中のピーナッツだけをつまんでいたそうで、それを見たS君が、混ざっているお菓子から、ピーナッツだけを指で集め、彼女の方に置いてあげたそうである。それを見た上司の奥さんがからかって、「あらS君、やさしいのね」といったそうで・・・

「そのときね、S君が言ったのよ、名セリフを。その一言を聞いて、美人の彼女は、結婚するのはこの人だ!って決めたんですって。その一言ってなんだと思う?」

そういわれても、私には見当もつくはずもなかった。
160センチ以上ある若くて綺麗で美人の女性が、自分より10センチ以上背の低い男性と、そんなことは一切関係なく「結婚するのはこの人だ!」と瞬間的に思わせたたった一言ってなんだろう・・・

それはね、こういう一言だったんですって・・Aさんは笑いを含んで言った。

「ピーナッツだけを取り出して食べるようなワガママっておもしろいじゃないですか」

私はうーんと唸ってしまった。
ワガママとは、世間の常識ではほぼ100%いけないもの、となっている。わがままな子、という言い方は否定と非難が含まれていても、肯定的に言われることはまずないはずだ。柿ピーというお菓子から、ピーナッツだけを取り出して食べることがワガママになるかどうかは別として、そのとき、その美人は、S君の度量の大きさを実感したのだろう。人とちょっと違うことをするのを、「面白い」と思えるのは、人間としての器が大きくなければできないことだ。
S君は、体は小さくとも、心はとてつもなく大きな人だったのだろう。
私は、さりげなく、私に数学の答案用紙を見せてくれた昔をまた思い出した。
度量の大きさはその頃からあったのだ。
「山椒は小粒でピリリと辛い」と私に言ったS君は小粒どころか、本当は大きな大きな人間だったのだ。

幸せな家庭に恵まれ、優秀な子どもたちにも恵まれ、S君は、幸せな人生を送っている。
「よかったね。S君」
私の心もほかほかと暖かくなった。遠いふるさとが、急に近くに感ぜられた。

山椒の佃煮もことことと音をたてて、素晴らしい香りを家中に放ちながら、いい具合にできあがっていた。

by mimishimizu3 | 2011-06-24 09:12 | エッセイ


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