2012年 01月 16日
月とウサギと鐘
童話。
月とウサギと鐘。前編

 むかし、イギリスのある小さな村のはずれに、クロウナガンという男の人が一人で住んでいました。クロウナガンさんは彫刻家でした。
 彫刻家というのは、粘土や石や木でいろいろなものをつくり、形にしていく人のことです。クロウナガンさんも、粘土で形を作り、石膏(せっこう)で型を取り、ブロンズという金属で仕上げていっていました。
 クロウナガンさんがよく作るものは、月とウサギと鐘でした。月はまあるい満月よりも、三日月が好きでした。 ウサギもつくりました。でも、クロウナガンさんのつくるウサギは本物のウサギとはだいぶ違っていました。手も足も長いのです。胴体も長く、顔と耳はウサギらしいのですが全体はなんだかウサギらしくないウサギでした。鐘も好きでした。教会の屋根にあるような鐘をていねいに作りました。
 
 でも、クロウナガンさんははじめから彫刻家になったわけではないのです。小さい頃から粘土遊びの好きだったクロウナガンさんはお父さんにいいました。「私は彫刻家になりたいのです」。するとおとうさんはすぐにいいました。「ダメだ。彫刻家になんてなったって、食べていくことはできない。おまえは法律家になりなさい」
 クロウナガンさんは法律の勉強をしました。学校を出て、お父さんの言いつけどおり法律家になりました。でも、ちっとも楽しくないのです。夜、空に浮かぶお月さまを眺めては、三日月を作りたいと思い、野原に出かけ、元気にぴょんぴょん飛ぶ野うさぎをみては、ウサギをつくりたいと思いました。教会があると、その屋根をみあげ、鐘をじっと見つめていました。
 とうとうクロウナガンさんは我慢できなくなり、法律家をやめ、いなかの小さな家に引っ越してきました。
それまでためたお金でなんとか生活しながら、こつこつと月とウサギと鐘を作っていたのです。
 けれど、クロウナガンさんの持っていたお金はどんどん減っていきました。毎日、少しのパンとチーズしか食べられません。クロウナガンさんは日増しに痩せていきました。それでも、クロウナガンさんは幸せでした。月を作り、ウサギを月の上に乗せました。鐘も作りました。鐘は月の後ろに置き、月を見守るようにしました。

 ある日のことです。ウサギの耳をていねいになでている時、クロウナガンさんはふぅっとあたりがぼんやりかすんでいることに気づきました。あたりが夕方のように暗くなってしまったのです。クロウナガンさんはそれはめまいというものだと思いました。食べるものがあまりないので、体が弱ってしまったのです。
クロウナガンさんはやっとの思いで、自分のベッドまで這っていきました。そしてそのまま重い病気になってしまったのです。

 夜になりました。空に明るい月が顔をだしました。今日は満月です。空のお月様はクロウナガンさんの家の窓をのぞき、石膏の三日月をじっと眺めました。そしていいました。「石膏の三日月さん、クロウナガンさんを助けて上げなさい」そうしてお月様は体をふっとゆすりました。
 すると、そこから大きな光の帯が出て、夜空を流れ、クロウナガンさんの家の三日月に入ったのです!三日月はびっくりしました。いのちが入ったのです。口もきけるようになっていました。
 三日月は隣にいるウサギに声をかけました。「ウサギさん、ウサギさん」。すると、ウサギもまた、それまでただの石膏のウサギだったのが、たちまち生きたウサギのようになったのです。ウサギは目をぱちくりさせて、三日月を見ました。「まあ、わたしたち、お話ができるんですね」ウサギがうれしくってたまらずそういうと、その声でこんどは鐘が目を覚ましました。「私は鐘ですが、仲間に入れてください」
 それから三日月とウサギと鐘はクロウナガンさんのことをはなしました。
 「クロウナガンさん、病気になってしまったようです。どうしたらいいでしょう」三日月がそういうと、ウサギがいいました。「食べるものがあるといいんですけどねー」鐘がいいました。「なんとか私たちで手にいれられないでしょうか」
 それを聞いていた空のお月さまが三日月にいいました。「外に出てごらんなさい」
 三日月はびっくりしました。家の外に出られるなんてそれまで考えたこともなかったのです。三日月はそっと体を動かしてみました。動きました!それを見てウサギもそっと体を動かして見ました。動けました!三日月とウサギはそろそろと家の外に出ようとしました。「私を置いていかないでくださいよー」と鐘が言いました。鐘も体を動かしてみました。動きました!

続きは明日・・・

by mimishimizu3 | 2012-01-16 16:26 | 童話


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