2012年 03月 02日
ある日、さっちゃんはおかあさんと、街へ出かけました。いとこのみっちゃんが病気で入院しているので、お見舞いに送ってあげるものを探しにいったのです。 おかあさんはデパートをあちらこちら歩いて、なにがいいかなー、と探しました。ケーキがいいかしら。お花がいいかしら。洋服がいいかしら。おかあさんは一生懸命考えているようでした。 さっちゃんは、ケーキもおいしそう、お花もきれい。洋服もステキと思いました。でも、おかあさんはなかなか決心がつかないようでした。 そのうち、さっちゃんは疲れてしまいました。デパートは人がいっぱいいて、おかあさんの手をしっかりにぎっていないと迷子になりそうです。 ふと見ると、ノートや、お手紙を書く紙などを売っているところに、きれいな紙のおひなさまがありました。さっちゃんが大好きな“飛び出す絵本”のように、折りたたんであるきれいな紙をぱっと開くと7段のおひなさまが飛び出してくるのです。さっちゃんは思わずおかあさんの手を離し、そのおひなさまのところに行きました。 さっちゃんは手にとって開いてみました。すると一番上のお雛様がうれしそうに、さっちゃんの手の中でにっこり笑ったのです。さっちゃん、はびっくりしました。 「さっちゃん、さっちゃん」おかあさんがあわててそばに来ました。「手をはなしちゃダメじゃないの」 さっちゃんはおかあさんに言いました。 「おかあさん、このおひなさま、笑うのよ。さっちゃんに買って」おかあさんはちょっと不機嫌そうな顔をしました。 「紙のお雛様が笑うわけないでしょ。それにおひなさまなら今、おうちに飾ってあるじゃないの。あのお雛様は何十万円もしたのよ」何十万円というところを、おかあさんは特に強く言ったようでした。そばにいた人がふっと振り返っておかあさんを見ていました。 「あんな立派なおひなさまがあるのに、なんでこんな紙のおひなさまをほしがるの。さあ、いきますよ」 さっちゃんは悲しくなりました。今家に飾ってある立派なおひなさまも、とってもとっても好きです。でも、この小さな紙の飛び出すおひなさまだって、とってもとってもかわいいのです。なにしろ、さっちゃんに笑いかけてくれるのですから。 でも、おかあさんが見たときは笑っていませんでした。だから、おかあさんはおひなさまが笑うなんて信じないのです。 しばらく行くと、おかあさんが、「そうだ!!」と、すっとんきょうな声をあげました。 「さっちゃん、あの紙のおひなさま、買いましょう。」 おかあさんは急いで引き返すと、店員さんに「そのおひなさま3つください」といいました。さっちゃんはまたびっくりしました。3つもどうするのでしょう。さっちゃんは一つでいいのに・・・と思いました。 でも、店員さんが包んでくれる前にさっちゃんは一つ一つのおひなさまをみました。すると、どのおひなさまもさっちゃんを見て、にっこりほほえんでくれたのです。 さっちゃんはうれしくなりました。 「さあいくわよ」店員さんから紙のおひなさまを受け取ると、おかあさんはそういってさっちゃんと手をつなぎました。 「あのね。おかあさん・・・」さっちゃんがいいかけようとした時、「これはね、」とおかあさんが話し出しました。おかあさんはこのおひなさまを病院いるみっちゃんと、“施設”とかというところにいる、おばあちゃんに送ろうと思ったらしいのです。 家にかえると、さっちゃんはみっちゃんとおばあちゃんに、ひらがなだけのお手紙を書きました。 「このおひなさまは、きっとびょうきをなおしてくれます。はやくよくなってね。」 翌日、さっちゃんはまたおかあさんと手をつなぎ、家を出ました。郵便局におひなさまを出しにいくのです。でも、その前におかあさんはお花やさんに寄って、みっちゃんとおばあちゃんのところにお花を届けてくれるように頼みました。それから郵便局に行きました。郵便局のお姉さんはぽんとスタンプをおしました。さっちゃんはおひなさま痛くなかったかな、と心配になりました。でも、大丈夫だったようです。 桃のはなが全部散ってしまったころ、みっちゃんが退院したと電話がありました。 みっちゃんのママとさっちゃんのお母さんの長い長いでんわがすみ、みっちゃんとさっちゃんが話しましたみっちゃんは小声でさっちゃんにいいました。 「そこにさっちゃんのおかあさんいる?」 さっちゃんが「いないわよ」と答えるとみっちゃんはやっと安心したのかさっちゃんに言いました。 「さっちゃん、知っていた?あのおひなさま、笑うのよ。でもね、それは、私が一人でいるときだけなの。ママが来るとおひなさま、もとのすまし顔になるんだから」 さっちゃんはくっくと笑いました。そうなんです。さっちゃんのときもおかあさんがくると、おふなさまはツンとすました顔に戻ってしまうのです。 「うん。こどもにしか笑ってくれないのね。大人にはダメなの」さっちゃんがそういうと、みっちゃんも「そう、そう」といいました。そしてふたりは楽しそうに電話でわらいあいました。 おばあちゃんからも電話がありました。あのおひなさまがおばあちゃんのお部屋にきてから、おばあちゃんの膝の痛みがなくなったそうです。さっちゃんは「おひなさま笑った?」とおばあちゃんに聞きました。「エッ、なんのこと?」おばあちゃんはいいました。それでさっちゃんはもっとはっきりわかりました。 やっぱりあのおひなさまはこどもにしか、笑ってくれないのです。 おばあちゃんとのでんわが終わるとさっちゃんはおひなさまのところにいきました。おひなさまはにっこり笑ってくれました。さっちゃんは「いつまでも大事に持っているからね」とおひなさまにいいました。 おひなさまはこっくりうなずいたようでした。
by mimishimizu3
| 2012-03-02 11:16
| 童話
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