2010年 12月 17日
ある映画を見に行ったとき、ロビーに北国新聞の特集がたくさん置いてありました。 武士の実話とあります。面白そう・・・とそのときから封切られたら見に行こうと決めていました。 加賀藩で「御算用係り」という、現在で言えば「経理係り」に当たるところに勤めていた下級武士の一家、猪山家。代々、刀ではなくそろばんで藩に仕え、出世もしていきます。ところが、出世をすればするほど、付き合いや格式、体面などで、膨大な出費がかさみ、主人公猪山直之は家がたいへんな借金をせおっていることに気がつきます。 そこで、主人公は家計建て直しを断行することにします。 まじめ一方で、不器用な主人公がした家計建て直しのはじめは、見栄や世間体をすてて、家財道具から何からなにまで売れるものは売るということでした。着物も一人3枚のみ・・ 嫡男の祝いの席の鯛は絵の上手な妻が紙に書いた鯛。それを一人一人の祝い膳に張ります・・・ 弁当箱まで売って、お城の勤務にも竹皮につつんだ、質素な弁当を持っていく・・この辺のところはユーモアたっぷりで観客からは大きな笑いが漏れました。 圧巻は、一匹の鯛から、5品の料理を作るところでしょう。「貧乏と思えば暗くなりますが、工夫と思えばたのしゅうございます」という妻のセリフは、核心を付いています。 けちな節約をする一家の姿を描くのではなく、家族の愛、親子の絆、時代の流れ、それらが美しい加賀の風景と溶け合って、見るものの心をほんのりと暖かいもので包んでゆきます。 この映画は「金沢藩士猪山家文書」として残された膨大な「家計簿」を読み解き、「武士の家計簿」として出版した学者の本を元に作られたそうです。 「猪山家文書」は何がいくら、ということだけを漢数字で書いてある、無味乾燥な数字の羅列にすぎないものだったでしょう。その数字の裏にある事柄を引き出し、ドラマを再現した力はすごいことだと思います。そしてまたそのドラマを、泣かせどころ、笑わせどころのつぼを押させて第一級の映画に仕立てた森田芳光監督も鬼才といわざるをえないでしょう。 堺正人さん、仲間由紀恵さん松坂慶子さん、中村雅俊さん等々実力派俳優が伸び伸びと楽しんで演じています。でも・・・ この映画の本当の主人公は、「そろばん」だと私は思いました。 「そろばん」をはじく音、なんとさわやかなのでしょう!そろばんってこんないい音がしたのか!と驚きました。 そろばんのさわやかな音のように、この映画もさわやかな映画でした。
by mimishimizu3
| 2010-12-17 08:40
| 映画
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