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2008年 06月 07日
トンピとトンパ
 「それって、本当に“トンピ”?」
 電話の向こうで、いともさわやか、そういわれた時、私は一瞬エッとたじろいだ。
 トンピ?トンピってなんだろう。
 私はパソコンで「検索」を入れるように、自分の頭の中に「検索」をいれた。トンピ・・トンピ・・・
 しかし、出てきた結果は「該当する語句はありません」というものだった。この年になるまで、私は“トンピ”という言葉を聞いたこともなければ、自分の口から“トンピ”という言葉を発したこともないはずなのだ。
 私がつまってしまったのをすばやく察したのか、友は軽やかに言った。
「あら、豚の皮よ。それって“トンピ”って読むでしょう。あなたがいっているのは豚の皮のことでしょう・・・」
 
 私はウーンとうなってしまった。

 その時、私は説明書を読んでいて、豚皮というところもなんども出てきていたのだ。
 その“豚皮”を私は“トンピ”とは読んでいなかった。
 では私はなんと読んでいたのだろう。
 そう気づくと私はひとりで笑い出してしまった。私はなんとも読んでいなかったのである。ただ、漢字という表意文字のありがたさで、トンピとは読まなくとも、それが豚の皮であることはきちんと理解できていた。
 いわれてみれば“豚皮”は“トンピ”と読むしかないではないか。
 
 ゼラチンの話をしていたのであった。

 最近、ゼラチンが、中高年の女性の間で、軟骨と軟骨の間のクッションになるということでちょっとしたブームになっているらしい。
でも、ゼラチンにもいろいろあってどのゼラチンがいいか、友が薀蓄を傾け、熱心に話すのを聞いているうち、合いの手を入れるつもりで、わたしもゼラチンを使っているといったことから、“トンピ”うんぬんとなったのである。

トンピとトンパ_f0103667_14191771.jpg


この話は要するに、漢字という表意文字の落とし穴とでもいうべきエピソードであろう。
我々は、その文字の読みがきちんと読めていなくとも、大体の意味は理解できることが多い。風圧計というものを一度も見たこともなく、聞いたことがなくとも、文字を見ただけで、おおよその見当がつき、なにをするものか理解できてしまう。
 
 それとは少しニャンスは違うが、最近、“トンパ文字”というのを知った。

 友人がおしゃれな、ステキなTシャツを着ていた。その絵柄は、今まで見たこともない、絵とも言えず、字ともいえないものだったのだが、それが“トンパ文字”であった。
 中国の山奥の、ある少数の山岳民族が実際に使っている象形文字だそうである。山とか川とか、鳥とか、私たちが今使っている漢字の象形とは異なった、ユニークな、ほのぼのとした暖かさがあふれる絵のような文字である。
 その文字が印刷されたTシャツが売られているというので、私はさっそく買いにいった。

トンピとトンパ_f0103667_14211995.jpg

 
 私は「水」というのを選んだ。山岳民族の人々が考えた水は、空を自由に舞う鳥のように見え、軽やかな気分にさせてくれる。こんな自由な発想をする山奥の人々はどんな暮らしをしているのだろう。私の空想ははてしなく拡がっていった。

by mimishimizu3 | 2008-06-07 14:22 | エッセイ


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